皮下免疫療法(減感作療法)
Galeries Lafayette
撮影:2010年12月
できましたら、携帯では無くPC、タブレットでお読み下さい。
はじめに
皮下免疫療法(減感作療法)は100年以上の歴史が有り、それなりの治療成績を上げています。まれに過剰反応がみられる事があり、治療法が一見複雑なので、残念ながら普及には至っていません。私は 1984年からこの治療を行っていますが、2000年の開業以来、古典的治療法に改良を加え、かなり良い成績を上げているので報告します。以下は、2015年11月に第14回ENT病診連携カンファレンス(慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科主催)で講義をした時の概略です。
対象
検討対象患者は、2000年10月〜2014年9月の14年間に、当院で皮下免疫療法を行った202名(男性100名、女性102名)、治療開始時の年齢は、6〜67歳(平均35歳)です。治療の内訳ですが、スギ花粉:125例、ハウスダスト(以下、HDと略)14例、スギ 花粉+HD:62例、その他:1例です。治療期間は、治療1回(で脱落)〜13年で、平均4.1年です。また、202例中、転院・転居して通院を離れたのは13例です。また、治療から脱落したものは65例 (47%)あり、現在も当院で治療中のものは124例です。
重症度
血液検査による対象患者の重症度の内訳は、スギ花粉は、重症50(27%)、中等症124(66%)、軽症10(5%)、不明3(2%)、ハウスダスト(HD)は、重症13(17%)、中等症42(55%)、軽症16(21%)、不明5(7%)です。不明例は、他院からの継続治療紹介で、検査データが添付・記載されていなかったものです。
治療成績 (2014年9月末集計)
患者自身による評価です。皮下免疫療法を行っている、という疾患に対する関心度の高さと情熱から、若干ひいき目に良く評価している可能性があります。 また、脱落例には、無効であった症例も含まれると思われます。転院、治療脱落等で判定不能のものは除いています。
スギ花粉
投薬無しで無症状、もしくは、ほぼ症状が抑えられているもの20/105例(19%)
無症状、もしくは、ほぼ症状が抑えられているもの(薬併用)35例(33%)
以上を著効例とすると、55例 52%。つまり、当院で治療を続けた場合、約半数は、
ほぼコントロールできていると考えられます。
投薬無しで、たまに症状+ 10例(10%)、投薬+で、たまに+ 28例(27%)
以上を奏効例とすると、38例 36%。 著効、奏効例を合わせると93例
89%
つまり、当院で治療を続けた場合、約9割は、かなり良い状態になると考えられます。
症状が、まあまあ(薬併用)は、1例 (1%)、たまに症状が出るため、治療薬を増量中のものは、
1例 (1%)。以上をやや効果ありとすると、2例 2%
症状出現(無効例)は、7例 (7%)
この内3例では、治療薬を増量治療中。増量途中、脱落してしまったものは3例。1例は、治療薬濃度
上限で維持。
副作用(脱毛(因果関係不明)、発赤)のため治療が中止となったものは、2例 (2%)
副作用(発赤)のため、来院しなくなったものは、1例 (1%)
つまり、副作用のため、治療が中止となったものは、3例 3%でした。
HD
投薬無しで無症状、もしくは、ほぼ症状が抑えられているもの 4/8例
(50%)
たまに症状+(薬併用、もしくは無し) 3例 (38%)
以上を著効例とすると、7例 88%。つまり、当院で治療を続けた場合、約9割は、かなり良い状態になる
と考えられます。
症状出現(無効例)は1例で、治療薬を増量治療していましたが、来院しなくなりました。
*20数年前まであった、ダニの治療薬は、治療成績も大変良かったと記憶しています。
2015年に再発売されましたが、濃度が非常に濃いバイアルしか発売されず、当院では治療ができません。
誠に残念です。
スギ花粉+HD
投薬無しで無症状、もしくは、ほぼ症状が抑えられているもの 12/46例(26%)
無症状、もしくは、ほぼ症状が抑えられているもの(薬併用) 17例(37%)
以上を著効例とすると、29例 63%。つまり、当院で治療を続けた場合、約6割は、ほぼコントロール
できていると考えられます。
たまに症状+(薬併用、もしくは無し)奏効例は、15例 (33%)
著効、奏効例 を合わせると44例 96%
つまり、当院で治療を続けた場合、約9割は、かなり良い状態になると考えられます。
症状出現(無効例)は2例 4%で、治療薬を増量治療中です。
ヒノキ花粉の時期
コントロールができている例でも、23/98例 (23%)で、ヒノキの時期に悪化しています。実際には、もっと
多いと思われます。
スギ花粉+ヒノキ花粉の治療薬を相当前からメーカーに要望を出していますが、実現していないのは、
真に残念です。
副作用
スギ花粉治療群で11/125例 (8.8%)。
内訳は、顔面・上半身の発赤6例(2例治療中止、1例脱落、3例減量し継続治療。
ただし、発赤の出るパターンを把握したので、その対策後は、現在のところ0例。
著しい痛みが1週間以上続いたもの3例(1例腹部注射、1例舌下投与、1例治療再開で疼痛-)
硬結1例、脱毛1例(ストレス性?)でした。
HD治療群14例では、副作用は0例でした。
スギ花粉+HD治療群で1/62例 (0.16%)で、帰宅後、全身に発赤出現し、自然消失。
つまり、スギ花粉を含む皮下免疫療を行った場合、12/187例(6%)で、何らかの副作用が出る可能性
があります。
* 最も注意しなければならないのは、注射後、約30分後に出現する全身の発赤ですが、これは生命が危ぶまれるアナフィラキシー・ショックに至る兆候でもあります。幸い、治療30年間でアナフィラキシー・ショックまで至った症例の経験はありませんが、常に、その危険はあります。
カタジュタ・風の谷とウルル(エアーズロック)
撮影:2012年8月
海外転勤の場合
舌下免疫療法に切り替え
、治療継続可能です。まとめ
皮下免疫療法を継続治療した場合、約9割では、かなり良い状態まで持っていける可能性があります。
ただし、約半数は、何らかの理由で治療から脱落します。
スギ花粉の時期にコントロールできている場合でも、2割以上は、ヒノキ花粉の時期に悪化します。
スギ花粉に対する治療では、約6%で、何らかの副作用が出る可能性があります。
* 何年か治療すれば、その後は注射の必要が無い、という報告がありますが、私自身の治療経験では、皮下免疫療法を中止したら、しっかり再発しました。維持量に達してからは、1〜2/月の注射で良いので、継続治療は必要、と考えています。
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当院の治療法 (ここからは、医療機関向けです)
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30数年の治療経験から、以下の方法に辿り着きました。参考になれば、幸いです。
検査
治療の禁忌
重度の喘息、妊婦(維持はOK)、免疫抑制剤使用、全身状態が悪い患者。
β-Blocker服用患者(アナフィラキシーの時、アドレナリンが効かない)、狭心症、不整脈、
本態性高血圧(アドレナリンで悪化)、三環性抗うつ薬、
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)-アドレナリン効果が増強
治療開始濃度
治療
治療にあたり、治療法、副作用等の説明をしっかり行い、また書面での説明書を渡し、治療の承諾書を取ります。
濃度の上昇は、スギの場合
0.2JAU 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml、0.3ml、0.5ml
2JAU 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml、0.3ml、0.5ml
20JAU 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml、0.3ml、0.5ml
200JAU 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml と上げていき、維持量(目標)は、200JAU 0.2ml です。
200JAU 0.2ml で、なお症状が出現する場合には、
200JAU 0.3ml、2000JAU
0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml と上げていき、維持量(最大)は、2000JAU 0.2ml です。
ただし、200JAU
0.2ml から増量する場合、それぞれの濃度で最低2回は注射します。
200JAU 0.5ml は疼痛を伴うため、おすすめしません。2000JAU 0.05ml を2〜3回注射しています。
また、ここから、毎回濃度を上げていった場合、全身に発赤が出る可能性が極めて高くなります(当院の症例)。
注射の部位は、上腕背面下1/3に皮下注(皮内ではない)で、皮膚をしっかりつまんで注射、注入速度は、できるだけ
ゆっくりと行います。
ただし、治療薬の中で、スギは最も痛い薬液です。また、希釈液も痛い薬液の一つです。長年要望を出しているのに、
いまだ改善されないのは、誠に残念です。
なお、インフルエンザ予防接種で、2〜3秒で一気に注入しているのをTVとかで見かけますが、これは、最も痛い方法です。
薬液が広がる時に痛みが生じるので、インフルエンザ予防接種の場合、1分位かけて、ゆっくり注射して下さい。
痛みが劇的に軽減するので、感謝されます。
シリンジは1ml、薬液の吸引は23G、注射には27Gを用います。吸引した針で打つと、針の切れが悪くなり、痛いです。
注射は、原則として左右交互に打ちますが、量が増えてくると、どちらかの腕の方に痛みを強く感じる患者さんがいます
(臨機応変に対応)。
注射の頻度は、2JAU 0.5ml までは、週3回まで、20JAU 0.5ml までは、週2回までとします。
週1回でも大丈夫ですが、経験的に、最初は週2回位、迅速に濃度を上げていくと、成績が良い感触を得ています。
注射を行う際、前回の注射で発赤、腫れがなかったかどうか、確認します。もし、発赤や腫脹が軽度でなかった場合には
濃度を上げず前回と同じ量にするか、
一段下げた濃度を注射します。風邪や体調不良の時には、患者が熱望しても、注射は行いません。
濃度の上昇は、HDの場合
1:1000 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml、0.3ml、0.5ml
1:100 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml と上げていき、維持量(目標)は、1:100 0.2ml です。
また、1:100 0.2ml で、なお症状が出現する場合には、
1:100 0.3ml、0.5ml、1:10 0.05ml、0.07ml、0.1ml、0.15ml、0.2ml、0.3ml
と上げていき、維持量(最大)は、1:10 0.3ml です。
注射の方法は、スギ花粉の場合と同様です。
濃度の上昇は、スギ花粉+HDの場合、基本的に、スギ花粉の場合と同様です。
ただし、スギ花粉:右側、HD:左側、と、左右別々に注射します。スギ200JAU、HD 1:100になったら、両者を混合して一度に
打てます。
混合バイアルは、HDに設定します。スギ花粉治療薬を吸引してから、HD治療薬を吸入します。
バイアル内での治療薬の混合に注意して下さい。
単独注射のバイアルと混合バイアルは、印をつけて、混同しないよう、細心の注意が必要です。
* 何年か治療すれば、その後は注射の必要が無い、という報告がありますが、私自身の治療経験では、皮下免疫療法を中止したら、しっかり再発しました。維持量に達してからは、1〜2/月の注射で良いので、継続治療は必要、と考えています。
湖水地方にて
撮影:2013年8月
副作用・全身発赤が出た場合
まず定番ですが、口腔内にユニットのボスミンをスプレーします。程度な間隔で数回行います。ラインを確保し、
アナフィラキシー反応に備えます。
アスピリン喘息が無い場合、私の場合、ソル・コーテフ250〜500gmを生食50ml(100mlのボトルから50ml程吸引減量)
急速に点滴しています。ただし、これは無効、との考え方もあります。
アナフィラキシー反応に備え、ボスミン1/2A(0.5mg
)を筋注します。1A 1mg を筋注すると血圧が一気に180以上となり、
危険です。
発赤が出現し当院で点滴をした4例では、点滴後、約2時間で発赤は消失しています。
もし、アナフィラキシー反応が出た場合は、 とるべき治療を行って下さい。
単独注射のバイアルと混合バイアルは、印をつけて、混同しないよう、細心の注意が必要です。
湖水地方にて
撮影:2013年8月
神宮前耳鼻咽喉科 クリニック
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TEL:03-3400-3022